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経済アナリスト・森永卓郎氏に訊く! 「再エネ投資は社会を豊かにする」か?

平成の30年間、停滞を続けた日本経済。これからの日本経済を立て直すために何が必要なのか。また、その中で再エネが果たすことができる役割とは。経済アナリストの森永卓郎氏に話を聞いた。

日本経済は大転落
原発最優遇があらわに

平成の時代、日本経済は大転落しました。1995年、対世界GDPシェアは18.6%ありましたが、今やその3分の1となってしまったのです。

その原因は、1990年代から始まった新自由主義政策にあります。2001年からの小泉改革で、不良債権処理のため日本の企業が二足三文で外資系に叩き売られました。技術立国・日本の自給率は大転落し、情報通信機器に至っては自給率50%まで減少。もはや輸入品なしではスマートフォンすら満足に使えないのが日本の惨憺たる現実です。

弱肉強食化が進み、年収300万円時代に突入し、雇用形態は正社員から非正社員に移行しました。一方で、とてつもない富裕層が爆発的に増えました。彼らの多くは、株式や不動産の譲渡益で儲けており、お金を右から左に動かすだけです。安倍政権になり、実質GDPは8%成長したとされていますが、実質賃金は5%も下がっています。手取りがどんどん減っており、このままでは経済が持続可能になるはずがないのです。

東日本大震災の後はすべての政党が脱原発を謳っていましたが、ここ数年は政権の方向が変わっています。特に太陽光発電に関しては、出力制御などありとあらゆるいやがらせをしています。また、環境のためと称して、2020年度に原発で発電する電力会社に対する補助制度の創設を検討しているともされ、原発最優遇の姿勢があらわになりました。

政府は「原発はコストが安く環境にも良い」などといっていますが、使用済み核燃料の処分費なども含めたら確実に太陽光の方が安いですし、温室効果ガスも出しません。なぜ明らかに有利な太陽光をいじめて、事故リスクが大きく使用済み最終処分さえ決まっていない原発でエネルギーの未来を描こうとしているのか。私にはまったく理解できません。

食べ物にも所得差が出る
割を食うのは低所得者層

自給自足という点では、農業の国内自給率は世間一般だと低いと思われていますが、実は産業連関表による2016年の農林水産業の国内自給率は、87%もあります。通信機器などよりもはるかに高いのは、中国の富裕層が日本の安全な農産物を買うからです。

利益のための農業と、日本の農業は違います。例えば、アメリカでは収穫後に農薬をかけたり、遺伝子を組み換えたりしています。周辺農家が破産した土地を買収し、大規模化しています。それに対し、日本は10数坪の農家もいて、なるべく無農薬に近づける努力をしています。消費者に危険なものは絶対に供給しないという精神があります。ところが、今や日本は政策として大規模化に乗っかろうとしています。体に悪い食べ物ばかりだと栄養不足などが日々蓄積され、生活習慣病といったかたちでいつかしっぺ返しがきます。それが分かっているからこそ、富裕層は危ない農作物は決して食べません。食べ物でも割を食うのは低所得者層なのです。

社会を豊かにする投資
富裕層が負うべき責務

今の政権は「一億総活躍社会」を打ち出していますが、辛い働き方ではなく、楽しくクリエイティブなことをして社会基盤を作るべきです。低所得に悩む人は、いくつも副業をすればいい。例えば私は本業の教員以外に農業、カメラマン、童話作家、おもちゃの博物館もやっています。稼ぐ手立てはいくらでもあるのです。

また富裕層は、金で金を稼ぐような、地に足のついていないビジネスに資金を投じるのではなく、社会を豊かにするために投資するのが責務だと思います。ほとんどの企業は、地に足のついたビジネスを通じて社会貢献をしており、国民生活をより豊かにしようと頑張っています。

その一つが再エネ投資ですが、大地震が来た時に発電設備が維持できるか分からないといったリスクはあります。だからこそ、失敗したら破産するような低所得者層には投資できないですし、富裕層がどうお金を使うかで再エネの未来が変わります。

 

プロフィール

森永卓郎氏

経済アナリスト。1957年、東京都生まれ。1980年、東京大学経済学部卒業。経済企画庁総合計画局、三井情報開発総合研究所、UFJ総合研究所を経て、獨協大学経済学部教授。著作多数、テレビやラジオでも活躍中。


撮影/松尾夏樹(NAOTO OHKAWA Photography,inc.)
取材・文/大根田康介

RE JOURNAL vol.1(2019年春号)より転載

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